夢ものがたり=Cocco
お菓子屋さん
フィギュアスケートの選手
空手で国体
パイロット
バレリーナ
振付師
大金持ち
クレープ屋さん

夢はいっぱいあった。
ただのひとつも叶ってない夢。

そんなこんなのうちに
すっかり大人になった私は
上記のリストには無い、
歌手になってた。
一度だって夢見たことはないと
想っていたけれど。

押し入れの奥の奥から
引っぱり出した小さな
おもちゃのスーツケース。
火事になったら持っていく物は
このなかに入っている。
茶色いへその緒も
大切な手紙も
いつかの葉っぱやら
石ころなんかも全部。

宝物に紛れて
小学校の通信簿を見つけた。
算数はいつも安定して最悪。
図工と体育はぴかいち。
備考の欄に足されるのは
ひょうきん、好奇心旺盛、など。
その他の行動としてはけんか。
学校中の男子全員と
お手合わせしたんじゃないかと
自負するぐらいけんかばっかり。
未だに同窓会に行けないのは
そのせいでもある。
通信簿に書かれることなんて
注意深く読んだことも
なかったけれど。
はたと、手が止まった。
“きれいな声で歌うのが上手です。”
記憶が繋がる瞬間は
突風のその時と良く似てる。

放課後の音楽室
だれもいない体育館
グランドピアノ
土曜日の帰り道
灼けたアスファルト
スイトピー、金網、雨
窓を全開にした車の後部座席

お盆に集まった親戚の輪
芝生のにおい
夜空

私が歌ったのは
うーさぎうさぎ
なにみてはねる
十五夜おつきさま
見てはああねーる

好きだった。
私は好きだった。
高い声が頭のてっぺんから
空へと昇っていくような

その振動にくらくら目を回して
体のまん中がまるで筒になって
大地と天をつなぐような
ふわりと立ち上る
私はそれが好きだった。

知らないうちに
導かれるように
私は辿り着いたのかもしれない。
ずっと夢見てた場所。
これまでの道のりが
許されたみたいだ。

今度月が出たら
あの歌をうたおう。

ずっと夢見てた場所へ。
また手を広げて。
私は行くんだ。

いつも涙が出るよ。
さあ、私は行こう。