花から花へ=Cocco


ライブの日の楽屋には
たくさんのお花が届けられます。


そのひとつひとつを解いて
お部屋いっぱいに飾るのが
その夜の醍醐味です。


花束を頂くことで
私はその贈り主を知ります。
花同士が丁寧に
やさしく束ねられていること、
花を長持ちさせるための
化学物質が付いていないこと、
もしも自分がお花だったら
嫌だなと想うことを
強いられていないこと。


海を見渡す丘の上に
暮らしていた頃、
朝焼けの海に背中を押されて
ぽんぽんと咲く
庭のバラを数えるのが
とても好きでした。


一重平咲きの淡い桃色のバラ
その蕾はまるで宝石のよう。


そしてある日
初めてのカクテルが咲いた朝
たったひとつのバラの香りで
小さなお庭は甘美のガーデンへ。


バラが好きだと言うと
よくドラマで見かけるような
あの赤いハイブリッド・ティー
モダンローズと思われがちですが
私が想いを寄せるのは
冷蔵庫へ押し込まれることも
拒むような野生のバラたち。


焦げるような沖縄の空へと
ゆらりゆらり立ち向かい
乱暴に咲くノバラ。
熱帯植物と見まがう逞しさ。


ハイビスカスや
ブーゲンビリアなら
もっと生きやすいものの
あのバラたちは
沖縄へ辿り着いたその時から
数々の困難を乗り越え
品種を越え、生き抜くことを
選んだのでしょう。


私は花が好きです。
旅をすると花を探します。


東京の桜に泣いた日のこと、
椿の潔さ、
美しい藤棚に息を呑んだこと、
たわわに踊る小手毬
ひらひら夢見るスイトピー
紫陽花の憂鬱
デルフィニウムの危うい蒼
風に揺れるクロタネソウ
真っ白なサマーローズ


濡れるような蓮
ひまわりの眩しさ


瞬きひとつの間に
季節は駆け抜けて


次に出会う花たちは
どこで私を待つのでしょう


さぁ 行かなくちゃ


雲が 次の空へ雪崩れ込んだら


花から花へ 光を繋いで


お花をいっぱい
ありがとう。


毎日新聞 2006年9月4日 東京朝刊